イントロダクション
1986年から翌年まで別冊マーガレットで連載され、全4巻で700万部という驚異的な発行部数を誇る、紡木たくの「ホットロード」。十代の頃に出会って以来、何度も手に取ってバイブルにしている世代はもちろん、主人公に共感する若者たちによって時代を超えて読み継がれている不朽のコミックが、ついに映画化された。母親に愛されていないのではないかという寂しさを抱えて生きる主人公の和希を演じるのは、今最も注目を集める若手女優、能年玲奈。彼女だけが持つ透明感を生かし、ヒロイン、和希を演じ切っている。和希が惹かれていく不良少年、春山役に抜擢されたのは、本作が映画初出演となる三代目J Soul Brothersのボーカル、登坂広臣。すでに多くの読者のものとなり、心に閉まわれている原作の映画化には、原作者の紡木たくの決断がある。今回、映画に新たに加えられた和希へのメッセージには、あの時の読者たちへの紡木の思いが込められている。その紡木が脚本を監修した。監督は『ソラニン』『僕等がいた(前篇・後篇)』『陽だまりの彼女』などのヒット作を手がけ、恋愛青春映画の名手として高い評価を得ている三木孝浩監督。原作と同様、世代を超えて愛される尾崎豊の名曲「OH MY LITTLE GIRL」が、原作の世界観を彩っている。ふたりの純愛だけでなく、母と娘の愛をみつめた、命の再生の物語。
ストーリー
亡き父親の写真が1枚もない家でママと暮らす14歳の少女・宮市和希は、
自分が望まれて生まれてきた子どもではないことに心を痛めている。
ある日、学校に馴染めずにいた親友に誘われるまま、
夜の湘南で出会ったのは、Nights(ナイツ)という不良チームの少年、春山洋志。
はじめは傷つけ合っていたふたりだが、和希は春山が身を置く世界に
安らぎや戸惑いを覚えながらも、急速に春山に惹かれてゆく。
春山もまた和希の純粋さに惹かれるが、Nightsのリーダーとなったことで、
敵対するチームとの抗争に巻き込まれてしまう――。
キャスト
宮市和希
能年玲奈
93 年生まれ、兵庫県出身。06年、第10回ニコラモデルオーディションでグランプリを獲得しデビュー、10年まで専属モデルを務める。第11代「カルピスウォーター」CMキャラクターで一躍脚光を浴びる。映画『告白』(10/中島哲也監督)で女優デビュー。映画は『カラスの親指』(12/伊藤匡史監督)、『グッモーエビアン!』(12/山本透監督)などに出演。テレビドラマでは「高校生レストラン」(11/NTV)、「鍵のかかった部屋」(12/CX)、「サマーレスキュー~天空の診療所~」(12/TBS)などに出演。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13)でテレビドラマ初主演。第38回エランドール賞新人賞受賞。
ふたつの孤独な魂がぶつかり合い、いつしか誰よりも大事な存在になる。
痛いほど純粋で不器用な愛情を描いた原作は、少女コミックの伝説的な作品であり
その映画化作品の監督を務めるのは本当に大きなプレッシャーでした。
それでも僕の背中を後押ししてくれたのは、紡木たく先生自身が和希と春山を託したいと願った能年玲奈と登坂広臣という二人の存在でした。
清廉で、どこまでも深い静けさと純粋さに溢れたその眼差しで見る者の心を射抜く能年玲奈。鋭さの中に優しさとしなやかさを持ち、
初演技とは思えない大胆さでスクリーンを駆け抜ける登坂広臣。
二人は全身全霊で和希と春山として生き抜いてくれましたし、
その無垢な二人が輝きを放つまさにその瞬間を切りとれた事は、
映画監督として何より至福の時間でした。
また、この作品は親子の物語でもあります。
時代が変わっても、自分の居場所を求め、もがき、傷つく若者達の姿は
変わることなくあの頃和希だった人達がやがて大人になり、
和希と同じ年頃の子を持つ親となった今だからこそ
この作品を映画化する意味があったのだと強く感じています。
時を超えて新たな肉体を得たこの物語が、
みなさんの心に届く事を願っています。
監督
三木孝浩
1974年生まれ、徳島県出身。ORANGE RANGE、YUI、いきものがかり、FUNKY MONKEY BABYSなど多数のミュージックビデオや、CM、ショートムービー、ドラマを手掛け、MTV VIDEO MUSIC AWARDS JAPAN 2005 最優秀ビデオ賞、カンヌ国際広告祭 2009 メディア部門金賞などを受賞。10年、長編初監督作品となる映画『ソラニン』が大ヒット。主な作品に、『僕等がいた(前篇・後篇)』(12)、『陽だまりの彼女』(13)などがある。最新作『アオハライド』(14)が公開待機中。
1.リハーサル
9月某日。準備稿があがり、リハーサルをスタートした。まずは映画初出演の春山役・登坂広臣さん一人でのリハ。原作が醸し出す独特のセリフまわしや、春山というキャラクターを表現しようと、厳しい表情でリハーサルに取り組んでいる。音楽活動も並行して行う厳しいスケジュールの中、三木孝浩監督の細やかな指導の下、徐々に春山を会得していっている。しばらくして和希役の能年玲奈さんもリハーサルに加わる。能年さんは、まるで和希がそこにいるように、すでに『ホットロード』の世界にかなり入り込んでいる。当たり前のことかもしれないが2 人ともリハ現場では台本などほぼ目を通さずリハーサルに臨み、和希と春山になりきろうと必死だったのが、その姿そのものに表れていた。